突然変異動物という毛の異常をもつ動物がいます。
実験用マウスとして知られているヌードマウスが有名で、よく実験映像等で目にすることがある毛のないねずみが、それです。ヌードマウス – Wikipedia
このヌードマウスは、毛包の発達がとても悪く、T細胞(リンパ球の一種)が作られない免疫異常が特徴です。これも「毛を作る遺伝子」の章で説明した、転写調節因子の異常からおこることがわかっています。
堀尾武博士という方が、このヌードマウスに有毛のマウスの骨髄細胞、胸腺組織を移植して、T細胞の再建を試みたそうです。そしたらどうでしょう!
まったく毛のなかったヌードマウスが有毛マウスと同じように毛が伸び始めたのだそうです。
このことから、毛の有無はT細胞が大きく関わっていることがわかりました。
ですがここは突然変異動物です。そう簡単に説明できるわけはありませんよね。
では、同じく実験用マウスで、人間(ヒト)の細胞を不安定ながらも定着させる事ができた、スキッドマウスSCID(severe combined immunodeficiency)というヒト化マウスがいます。
スキッドマウスは、ヌードマウス同様T細胞を持っていません。それに加えB細胞(別のリンパ球)さえもないのです。
しかし、このスキッドマウスは、T細胞を持っていないにも関わらず、毛がフサフサしています。毛の有無はT細胞が関与しているのではなかったのか?
ヌードマウスとスキッドマウスを検証した結果、発毛をコントロールしているのはT細胞ではなく、免疫全体のバランスが大きく影響しているのではないかと考えられているそうです。
なぜそう言えるのか?免疫抑制剤という薬があるのですが、この薬の副作用として発毛の促進というのがあります。
実際にネズミを使った実験で、ネズミの皮膚にこの免疫抑制剤を直接かけみたら、発毛を促進したのだそうです。ならばこの免疫抑制剤を一般的に使えるようにして、発毛に役立てればいいのでは?と私たちは安易に考えがちですが、この薬はかなり強い副作用があるため、やはり医師のもとで適切な指導を受けることが必須だそうです。
免疫など遺伝子をコントロールするのですから、やっぱりそう簡単には自己使用とかは難しいのかも知れませんね。
参考文献 毛髪を科学する 松崎 貴著
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