動物の毛は、お母さんの胎内にいるときに形成される
動物の中でも妊娠期間中体内に長くいる人間の胎児は、何度も何度も毛が生え変わるそうです。
胎内と胎外も髪の毛の周期は変わらないはずだから、10カ月も胎内にいる胎児の毛が生え変わるというのもそんなに驚くべく事実でもないですね。
かといって、人間の胎児の皮膚を実験に使うというのはとても無理なので、研究者たちはネズミの胎児を使って皮膚の研究をしました。
胎児のときの皮膚は、わずか二、三層の表皮細胞しかないそうです。その表皮層の一部で、細胞分裂が活発になってきて、真皮層側に毛芽(もうが)という膨らみができます。
この毛芽が作りだされた頃、すぐ下の真皮層には線維芽細胞という細胞が集まり、そして最後には周囲の組織との境界をつくれるくらいに集まります。それが真皮集塊(しんぴしゅうかい)という集合体です。
そこまでくると毛芽は急速に成長し、さまざまな毛の組織に分化して毛包ができます。
毛包形成のポイントは、毛芽細胞と真皮集塊の相互作用
異なった種類の細胞の相互作用は、菌や乳腺、肝臓など色々な組織や器官が形成されるときに必要となるのです。
真皮集塊は、毛芽が伸長する時にコラーゲン分解酵素を分泌しながら、毛芽が通るスペースを作っています。
何だか、人間が稲植えをする時の感じに似てますね。となると私たちが真皮集塊ってことでしょうかね。私たち真皮集塊は、稲である毛芽がよく育つように田んぼにコラーゲン分解酵素という肥料をまいて、稲が倒れてしまわないように一定方向に穂先を伸ばすように手をくわえます。
毛芽はある程度大きくなると先端に窪みができます。その窪みに真皮集塊の一部が包まれ、そしてパピラ細胞というものに分化していきます。
そのパピラ細胞の上に三角形の構造をしたものを見ることができます。それが角化した内毛根鞘(ないもうこんしょう)細胞です。
やがて内毛根鞘の内側にある毛幹がどんどん成長していきます。ですが、毛幹の毛穴は開いていません。この毛穴が開かないと毛幹が外へ出ることができないのです。
しかし、毛幹の先端が皮膚の近くまで伸びてくると、毛幹の先端を覆っていた表皮細胞が死滅してしまい、細胞が死んだ後の空間が毛穴となるのです。
すごいですよね。それだけでなくこの細胞死は遺伝的にプログラムされているというのですから、またびっくりです。
その遺伝子プログラムには、いつ、どこでどの細胞が死ぬのかという情報もちゃんと書き込まれているそうです。
京都大学の西川伸一博士らがこの遺伝子プログラムについて研究されたそうです。その博士によるとカギを握る物質の中に血小板由来増殖因子リセプターαという分子があるのだそうです。
その血小板由来増殖因子リセプターαの働きを抗体を使って止めてみたら、死ぬ運命の表意細胞がしななくなり、毛穴ができなくなったそうです。毛穴ができなければ、毛芽が伸びることができないということになりますよね。
毛が伸びることがこんなに緻密にプログラミングされているとは、ほんとうにびっくりしました。
参考文献 毛髪を科学する 松崎 貴著
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