毛周期の「成長期」の長さが、部位によって違っていることを、以前の記事に書きました。しかし、世界記録では髪やひげの長い人もいますよね。そこにはどうやら「増殖因子」という存在がからんでいるようです。今回は、その謎に迫ってみましょう。
髪がすごく長く伸びる人
ギネスブックによると、世界で一番髪の長い人は、7m93cm!インドのスワミ・バンダラサナジという女性です。髪の伸びる速さは1ヶ月に約1cmなので、単純計算で、ここまで伸びるのに66年かかったことになります。
つまりこの方の髪は、成長期が66年あったということなのでしょうか?
髪の長く伸びる人は、髪の伸びる速度が通常より速く、その上成長期が長いと考えられています。そして、その伸長速度を決めているもののひとつが「増殖因子」であると言われているのです。
増殖因子とは?
増殖因子とは、細胞から分泌される小さなたんぱく質で、いろんな種類があります。
最初に発見された時、特定の細胞の増殖を促す物質として発見されたため「増殖因子」と名付けられましたが、実際には増殖を抑えたり、細胞の分化や移動性を促進したりする効果があることもわかってきました。この増殖因子は、毛髪の伸長にどう関わっているのでしょうか?
マウスの実験でわかる成長期の長さ
体毛が長くなる突然変異体のマウスは、たった1つの遺伝子が壊れているため、体毛が長くなっていることがわかりました。それを利用し、体毛を長くする増殖因子をふつうのマウスに移植したところ、ふつうのマウスよりも毛周期の成長期が長くなり、毛が退行期に入らなくなりました。ほかにもいくつかの遺伝子が関わっているようですが、増殖因子が毛の長さを決定するのに関係していることは間違いないでしょう。
増殖因子は、育毛剤になり得るか?
答えから先に言うと「ノー」です。残念ながら、増殖因子は頭髪の伸長だけでなく、ほかの組織や細胞にもさまざまな作用をもっているため、どんな副作用を起こすか大変危険なのです。
また、皮膚へ浸透しにくいこと、濃度の調整が非常に難しいことなどがあり、今のところは実用的ではなさそうです。研究が進み、毛髪の増殖にだけ作用するような増殖因子がみつかれば、優秀な育毛剤になるかもしれませんね。
だんだんとわかってくる毛髪に関わる遺伝子やメカニズム。これらが解明されれれば、毛髪のコントロールも夢ではありません!楽しみな研究ですね!
※参考文献 毛髪を科学する 松崎 貴著
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