毛母は、幹細胞のコピーから作られる過渡的増殖性細胞の一種ということがわかりました。では、その幹細胞はどこで作られているのでしょうか?2つの実験からその謎に迫っていきます。
めったに細胞分裂しないことを利用した実験
幹細胞は、コピーのエラーをできる限りなくすため、めったに細胞分裂を行いません。そこを利用して、ペンシルバニア大のコツァレリス博士らは目印になる物質を投与し、遺伝子に取り込ませました。細胞分裂が活発な細胞は、その目印になる物質が分裂の度にどんどん希釈されていきますが、細胞分裂がされていない細胞の遺伝子には、最初に取り込んだ物質の濃度で、そのまま残っているはず、というわけです。
その結果から、幹細胞は毛包の上部分のふくらみ部分の位置にあると主張されています。
無限の増殖能力に着目した実験
フランスのバランドン博士と日本の小林博士らは、幹細胞の増殖能力に着目し、コロニー形成法を用いました。毛包を細かく輪切りにして、それぞれの細胞を培養してコロニーができるまで増殖した細胞と、コロニーができない細胞とを確認しました。この実験によると、高い増殖能力を持つ細胞は、毛包上部のふくらみ部分よりやや下にあると言っています。
2つの実験では、見解が少々違っていますが、どちらも幹細胞のようなものは毛母の近くではなく、毛包の上の方にあると結論を出しているようです。
毛母細胞はどうやってできる?
さて、毛母細胞がどこからできるかが、わかってきましたね。毛包の幹細胞が分裂してできた過渡的増殖細胞が、毛包に沿って下へ移動、そして毛母細胞へと変化する……というのが、今のところ考えられていることです。
実は、キズや火傷などで表皮が損傷した場合には、毛包の幹細胞が皮膚の再生に動員されるのだそうです。普段は毛母細胞の源となっている幹細胞は、いざとなったら皮膚の表皮細胞となる予備軍としての役割もあると考えられているのです。
毛母細胞のおおもとである幹細胞は、栄養満点で傷つきにくい場所にあり、しかも表皮にキズを負うと皮膚の細胞にもなるのですね!ケガをしたところに毛が生えない理由は、もしかしたら、ここにあるのかも?!
参考文献 毛髪を科学する 松崎 貴著
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