須長史生氏著『ハゲを生きる』の中で、筆者が薄毛の人にインタビューしています。「ハゲ体験」として多くの人の経験を書いているので、少しずつ紹介していきます。
Sさんの薄毛は20歳から
秋田県在住で農業を営むSさんは、インタビュー当時63歳。この時の頭髪状態は、頭頂部はわずかで側面は黒髪だったそうです。
Sさんが薄毛になり始めたのは20歳の頃。最初はかゆみから始まり、かくと指に3〜5本抜け毛があったと言います。ハゲる心配というより、頭がかゆいという現象だったようです。
自分の父親も祖父も、おじさんも母方の祖父もおじさんも、みんな薄毛で、ひょっとしたらという不安があったそうです。
見合い写真を黒く塗る?
Sさんは24歳の時に結婚していますが、お見合い結婚だったのだとか。当時すでに総体的に薄くなってきていたので、お見合い写真を撮るにも、ポマードなどでなでつけたり、櫛を入れたりすると、いかにも髪が薄そうで格好悪かったそうです。
そこで、髪をとかさずわざとボサボサにしてふんわりさせ、なんと生え際を黒く縫って撮影したのです。
当時の人と人はもちろん、家と家の結びつきにも重点があったお見合いにあっても、お見合い写真では薄毛を隠すようなことをしたのですね。
髪の薄さを諦めたのはいつ?
Sさんはお見合い写真もごまかしたけれど、最初の頃は髪をとかさないで角刈りみたいにしたり、バサバサにしてふんわりさせたりして髪があるように見せるための細工をしたと言います。
養毛剤や育毛剤も、少しは試したのだとか。しかし高価なので続かず、遺伝だとすれば何をやっても仕方ないと、25歳くらいの時に面倒になって坊主頭にしたそうです。
それ以来、髪を伸ばすことはせず、青年会などの集まりも億劫になって3分の1くらいしか出席しませんでした。
億劫なのはきまりが悪いということもありましたが、冷やかされることもあったからだそう。若いうちの薄毛は、心理的に深いものがありそうです。
年齢が中年以降ならばまだしも、20代で薄毛になったSさんは、見た目は諦めたものの、人が集まるところに行くのが面倒になってしまったのですね。周囲はただのからかいのつもりでも、本人にとっては大きな傷となっていたのかもしれませんね。